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vol.2 表紙 2006 vol.2 春

『現代農業』4月増刊
2006年3月6日発売
定価802円(税込)

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かいぜのおしぼりうどん

大根のしぼり汁につけて食べるうどんがあるという。しかも、その大根の味を「あまもっくら」というらしい。
いったいどんなうどん? どんな大根? これは食べてみなければ。軽井沢と長野市を結ぶしなの鉄道の坂城駅で下車し、うどん屋「かいぜ」に向かった。

写真=富井昌弘 文=中田めぐみ

写真1

おしぼりうどん。おしぼり(大根のしぼり汁)に入れるのは、麦味噌とねぎとかつお節。

甘辛〜い「ねずみ大根」のしぼり汁で食べる、おいしいうどん

写真2

なかんじょ大根(ねずみ大根)は葉の形も根の形も普通の大根とは違う。おしぼりだけでなく、冬の保存食として漬物にも使われる

 「かいぜ」は、大根畑の中にある一軒屋のうどん屋だ。そのうどんで使う大根の畑を見て驚いた。「これが本当に大根畑?」乾いた土に、切れ目の深い京菜に似た葉。これはちょっと普通の大根とは違う。葉の付け根を引っ張ると拍子抜けするぐらい簡単にスポッと抜ける。大根を育てるときは、二股にならないようによーく土を耕してというけれど、この畑は雑草も結構生えているし、畝があるわけでもない。なんだかのびのびと好きなように大根が生えているという感じだ。
 片山しさ子さん、吉一さん夫婦は、次から次へと大根を抜いて並べていく。短いぷっくりした大根にヒュルンと尻尾のような根っこが伸びて確かにねずみっぽい。この大根が辛いけど甘いねずみ大根。もともとは、ここ中之条地区生まれ、ここでは「なかんじょ大根」と呼ばれる。この大根が、かいぜのおしぼりうどんには欠かせない。

つわりでも食べられたおばあちゃんのうどん

 おしぼりうどんというのは、この地域で昔から食べられていたうどんで、地の大根、ねずみ大根をおろし、そのしぼり汁に味噌をいれて溶いたつゆをおしぼりといい、そのつゆにうどんをつけて食べる。
 しさ子さんは、もともと坂城町の少し北の長野市出身で、お嫁にくるまでおしぼりうどんは食べたことがなかった。
 「正直、うどんもそばも好きじゃなかったのよ」
 と屈託のないしさ子さん。実は、しさ子さんは、つきあいでそば屋に入ってそばを注文しても、口の中でもぞもぞ。この口の中のものをどうやって食べようかと悩んだぐらい、若い頃はそばやうどんが苦手だったのだ。
 「この辺は田んぼがたんとないから、二毛作で麦をつくって、米は売るほうにまわして、食べるのは、麦で打ったうどんだった」と吉一さん。そういうわけなので、片山家の夕食は「粉もの」――小麦粉でつくる主食がほとんどだったが、うどんが食べられないしさ子さんは、そうっとご飯を食べていた。そんなしさ子さんが、なんでうどん屋を?
 「一人目の子のつわりのときにおばあちゃんが打ってくれたうどんを食べたらつわりが治まったの。つわりのときに食べられたのは、そのうどんだけ。ああ、手打ちうどんってこんなにおいしかったんだって初めてわかった。それからおばあちゃんに教えてくださいってお願いして」

写真3

片山しさ子さんと吉一さんご夫妻

 おばあちゃんとは吉一さんのお母さん、つまりお姑さん。おばあちゃんの手元を見ながら、最初は見よう見真似で打ち始め、だんだん自分なりのつくりやすい分量ができてきた。粉もずっと同じ、農協で手に入れる国産強力粉を使っている。かいぜのうどんの味は、まさしく家庭の味なのだ。

つづきは「うかたま」vol.2で!